【感想・考察】綿矢りさ『インストール』 | 純文学入門としておすすめ

書評

 

綿矢りさ『インストール』(河出文庫)の書評・感想です。

綿谷りさはなんと当時17歳。しかもめっちゃ美人。とても話題になりました。この『インストール』が処女作です。2001年に第38回文藝賞を受賞してデビューしました。

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こんなひとにオススメ

  • 退屈な日常にうんざりしている中学生・高校生
  • 純文学に興味がある方
  • 難しい小説がどうも読めない方

 

読み終えるまでに時間がかからず、とても読みやすいです。

「純文学入門」、もっと言えば「小説入門」です。

 

『インストール』のあらすじ

受験を控えた高3の「朝子」は、母親には内緒にしながら不登校を決意します。と同時に、部屋の家具を全てゴミ捨て場へ捨てに行きます。そこで出会ったのが、同じマンションに住む小学生の「かずよし」。朝子の家具の中から古いコンピューターを貰います。そして、彼と一緒にそのコンピューターを使って、仕事を提案される。その内容に朝子は戸惑いながらも、新しい世界への好奇心で始めます。大人の世界を覗いた二人の成長を描く作品。

 

 『インストール』書評・感想(ネタバレ)

まず印象的なのは文体です。

独特のリズム、と言えばいいのでしょうか、とにかく異質なのです。読点(=「、」)が多く、長い文と短い文が織り交ぜられています。

…このまま私、廃人になってしまうのではないかと本気で怯えた。しかし私は大掃除、という愉快な企画をふっと思いついたのでなんとか救われた。単なる掃除だけじゃ物足りない、全部捨ててやろうと、ただ単純労働を求めてうずうずしている体のために巨大な本棚を部屋から運び出す。破天荒なり。 [『インストール』P15]

そしてさらに、印象深いのは、「主人公の心情です。

上の文でも分かりますが、年頃の高校生が頭の中で感じ取った全てが、本当に聞こえてくるような気がします

  • 何者でもない自分に嫌気が指し、漠然とした特別な何かを自分に求めること
  • それでも現実は何者にもなれず、時が過ぎていくこと
  • 彼女を取り巻く狭い社会に対してうまく順応できていないこと

自分が高校生だった頃と本当に似ています。

人生はどこまでも無駄だらけで、暇で、自分には何もなくて、それが恐怖でした。

そしてまだ何者でもないけれど絶対に何者かになりたいと願っていたのです。

自分の現状と理想のギャップに思いやられ、あらゆる絶望を経験しました。

この作品を読むと、その時の心境が蘇ってくるのです。

 

主人公も悩み事は絶えません。そしてそれに全力で向き合っています。

高校生というのは悩み抜くための年頃なのかもしれません。そして、悩み抜いて悩み抜いて何かを学び取り、そこから成長するのです。
そう、この小説は自己も確立していない不安定な高校生が成長していく過程が描かれているのです。 

主人公・朝子は、平凡で退屈な毎日から必死に抜け出そうとします。彼と共謀して「風俗チャット」でお金を稼ぐことを勧められたとき、こう言ってます。

こんな寄り道を気の迷いで選んだら、何者にもなれそうにない予感が確信、確定に変わってしまうことは間違い無いだろう。 [同上 P70]

もういいや。コンピューターを見る。その中で光るエロチックな写真と、そこから広がる私の知らない世界。
おもしろそうだった。 [同上 P70]

あらゆる思考をめぐらせ、決意をします。おもしろそうだから。未知の体験をしたいから。彼女は一歩前に進んだのです。
このようにして、他者と交流をしていきます。それは顔の見えない他者であり、特殊な存在です。

そしてこんなことも長くは続かず、母親たちにバレてしまいます。しかし彼ら「大人」と交流していくうちに彼女の心境が変わっていきました。

何が変わった?何も変わらない、私は未だ無個性のろくでなし。ただ、今私は人間に会いたいと感じている。昔からの私を知っていて、そしてすぐに行き過ぎてしまわない、生身の人間たちにたくさん会って、その人たちを大切にしたいと思った。[同上 P128]

まだ私には何も無い、けれど、「人間に会いたいという感情」が生まれてきました。見知らぬ他者との交流の中で、身の回りの他者の大切さに気づきます。彼女は一歩を踏み出し、それにより成長できたのです

 

 彼女は学校へ行く決心をし、稼いだお金で捨てた家具たちを買い直そうとするところで終わります。こうしてまた日常に戻るのです。 

 まとめ:小説初心者の方にもおすすめ!

話の内容はだいぶ非日常的ですが、高校生の成長としての作品と考えればとても普遍的で誰もが共感できます。
これに加えて分量が少なめで、とても読みやすいため、多くの人が買い求めるのも納得ができます。難しい小説は最後まで読めない人、純文学に興味がある人、小説入門としてもおすすめです。

 

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