
『図書館奇譚』は面白かったけど、
なんか謎なところも多かったなあ…。

そんな方々には必見です。
ただ読むだけでも面白いですが、隠れた意味が分かればもっと楽しめますよ!
村上春樹『図書館奇譚』の特徴を解説

考察の前に、『図書館奇譚』の特徴はざっとこんな感じ!
①ちょっと不気味
「奇譚(きたん)」とは「不思議な物語」という意味です。
その名の通り、少しホラーの風味を感じるファンタジー短編です。長編小説『羊をめぐる冒険』や『ダンス・ダンス・ダンス』でおなじみの「羊男」が出て来ます。
②村上春樹特有のユーモが満載
村上春樹独特のユーモア溢れる言葉遣いが目立ちます。
にっこりと笑った。空がふたつに割れてしまいそうなくらい素敵な笑顔だった。(p.223)
長編小説『ダンス・ダンス・ダンス』や『ノルウェイの森』などでもよく見られた、ちょっと変わった面白い表現がたくさん出てきます。
③子供から大人まで
子供から大人までどんな方でも楽しめる作品です。

子供にとっては童話。大人にとっては文学。「大人のための童話」であると言えます。
村上春樹 『図書館奇譚』の考察
ズバリ、この作品のテーマは「成長」です。

精神的に未熟な「僕」が、地下を脱出することで大人に近づいていくことを表現しています。
⑴図書館に入るシーン
僕が図書館に行くと、とても理不尽な老人に会います。
そして無理矢理に地下の奥深くの牢屋に閉じ込められます。そこでは足枷までつけられているのに、美味しい食事が出てきます。
牢屋には羊男がいました。
そこで僕は、一ヶ月後に「頭を切られ脳味噌をちゅうちゅう吸われてしまう」ことを知ります。でも彼はそれも悪くないと言います。「残りの人生をぼんやりと夢みながら暮らすようになれる、そう願う人たちさえもいる」と。
⑵牢屋で美少女と出会う
しかし、美しい少女に出会った後に地下から脱出する決意をします。
とにかくここから逃げ出すことだ。図書館の地下にこんな迷路があるなんて絶対に間違っているし、誰かが誰かの脳味噌を吸うなんて許されるべきではないのだ。(p.219)
羊男は「少女なんて存在しない」といいます。
でも結局はおいらはここでずっと柳の枝でぶたれるんだし、君はもう少ししたら脳味噌を吸われるんじゃないか……(p.230)
何もかも諦めている羊男は「もう希望なんて存在しない」と言っているのです。
まだまだ幼くて弱い僕はくじけそうになると、美少女のことを思い出します。
<あなたはなんともないの。だから大丈夫よ。きっとここから抜け出せるわ> <本当よ。あなたは強くなってきたし、これからもどんどん強くなっていくの。誰にも負けないくらい強くなれるわ>(p.235)
そしてついに羊男も美少女に出会い、脱出の決意をします。
希望と勇気を持ったのです。「心配しなくていいよ」「きっとうまくいくからさ」と僕を励ますようにさえなります。
⑶脱出する
長い長い道のりです。辿り着けるのか、こっちで合っているのか、全てが不安でたまりません。
それでも僕は不安だった。迷路の問題点はとことん進んでみないことにはその選択の正否がわからないという点にある。そしてとことん進んでそれが間違っていたと分かった時にはもうすでに手遅れなのだ。(p.243)
大人になるまでに、人生を左右するような決定を幾度となく行います。まるで真っ暗で複雑な道を歩くような不安です。自分が間違っていたらと思うと怖くてたまりません。
そして僕は、脱出するために邪魔な母親からもらった靴を脱ぎ捨てます。
母親からの自立・ひとり立ちをするのです。(脱いだ後に、母親を思って取りに戻ろうとしたり未練が残りますが、それも克服します。)
そうしてやっとむくどり(=少女)が助けてくれて、羊男と一緒に逃げ出します。永遠だと思えた、閉じ込められた世界からようやく抜け出したのです。
(冒頭に「永久運動が存在しない」と書かれているのは、この永遠に思えた青年時代は終わり大人になるということを意味します)
⑷脱出後
脱出後、羊男は突然いなくなってしまいます。
家に帰ると全てが平和で元どおりでした。
しかし母親が少し悲しそうな顔をしています。成長して大人になった僕(独り立ちに近づいた我が子)を見て、自分の元から離れていく悲しさから来ています。
そして最後には母親が死んでしまいます。
おすすめ:『図書館奇譚』が好きなあなたへ

『図書館奇譚』が好きなあなたは、次にこんな作品を読むべきです!
①アートブックになった『図書館奇譚』
ドイツ人によるイラスト付きの絵本になりました。
カット・メンシックという女性イラストレーターが手がけました。
村上春樹の大ファンである彼女が、独自の解釈を踏まえイラストにしています。ちょっと怖い「羊男」が見ものです。
②『羊男のクリスマス』
こちらも「大人のための童話」といえる作品。