【書評・考察】綿谷りさ『蹴りたい背中』

書評

 

綿矢りさ『蹴りたい背中』(河出文庫)の書評・考察です。

04年に芥川賞を最年少で受賞しました。綿谷りさはなんと当時19歳しかもめっちゃ美人。とても話題になりました。

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『蹴りたい背中』のあらすじ

高校1年生の「ハツ」は、クラスでは孤立し、浮いた存在であった。そして、自分と同じように独りであった「にな川」が、あるファッション雑誌を読んでいることに気がつく。そこに載っていた人気モデルの「オリチャン」の大ファンであった彼は、ハツがたまたまオリチャンと会ったことがあると知ると、一緒にその場所へ行ってくれるようハツに頼み込む。それからハツとにな川は、友情でも恋愛でもない異様な関係性となっていく。微妙な年頃の心情を描いた青春小説。

こんなひとにおすすめ

  • 中学生・高校生
  • 学校に馴染めなかった方
  • ありきたりな青春小説に飽きた方

中高生の方は全員、読んでいただきたいです!この歳頃の心理描写には共感せざるを得ません。

『蹴りたい背中』の特徴

①思春期特有の感情

この小説は高校生のキラキラした青春を描いていません。思春期特有の未熟さや不安、寂しさなどが徹底的に描かれています。主人公のハツが、陸上部の練習で先生に不意に説教をされた時の描写です。

力強く言われて、不覚にもじんときた。先生から目をそらしながら、泣きそうになる。やっぱり先生は嫌いだ。認めてほしい。許してほしい。(p.109)

 

思いがけなく、大人に怒られるハツ。悪いことをするつもりはないのに注意され、自分を否定された気になります。叱られなれてない、まだまだ脆い自分はそんなことで泣きそうになったり素直になれなかったりします。結局、確立されていない弱い自分を認めてほしいのです。そんな願望は満たされず、自分を否定した先生を嫌いになることで自らを保とうとするのです。

 人にしてほしいことばっかりなんだ。人にやってあげたいことなんか、何一つ思い浮かばないくせに。(p.110)

 

 自分という存在がとても不安定で、誰かに認めてほしい。何かを与えられたい願望だけが募っていきます。でも、自分は大人でありたい。強がってしまうけど、自分は無力なのです。そう言った葛藤から気持ちが込み上げます。

こんなにも高校生の心情をありありと描けるのには圧巻です。作者は当時19歳ということで、とてもリアリティが感じられます。

②学校に馴染めないハツの心情

主人公のハツは、高校のクラスメイトと全く馴染んでいません。馴染もうとしないのです。それは中学時代に無理にでも周りと馴染もうとして疲弊したから。授業の間の十分休みや昼休憩など、彼女はいつも孤独であり、その度に一つずつ年老いていく気がします。

ハツは、絹代(=中学時代から知っている友達)を見て思います。

絹代は机を囲んで大騒ぎしている雑草の束のもとへ走っていく。どうしてそんなに薄まりたがるんだろう。同じ溶液に浸かってぐったり安心して、他人と飽和することは、そんなに心地よいもんなんだろうか。(p.22)

 

自分は人見知りをして他人と関わらないのではなく、人を選んでいるのだ。レベルの低い幼稚な人達とは話したくなくなるのだ。今の自分を認めてくれるのは自分しかいない。必死に正当化し、強がります。そして自分を保つために、誰よりも周りを気にするのです。そして絶えず迫ってくる「さびしさ」から耐え忍ぶために、孤独の音を消すために、紙を千切るのです。

『蹴りたい背中』の考察

①にな川について

そんな周りの社会とうまく馴染むことができない主人公が、自分と同じような境遇の男と出会います。極度に根暗な「にな川」です。しかし彼はハツとは違って、周りを気にしたり、さびしさを恐れたりしていません。

それもそのはず、オリチャンというモデルに青春の全て注いでいるからです。他のことに興味がないのです。ハツは彼のその無頓着さに興味を持ちます。にな川は、ハツを「オリちゃんを見た人」として認識し、次第に交流していきます。同じ境遇のようで違う二人です。

②蹴りたい背中とは

ハツは二度、にな川の背中を蹴ります。それは以下の理由からです。

彼女はにな川のことにとても興味を持ちます。
しかし、にな川は一貫してオリチャンにしか興味を持ちません。ハツのことに全く関心がないのです。話している時も、家にいる時も、ライブに行っている時も、ハツはいつもにな川に関心を寄せにな川はいつもオリチャンに関心を寄せます。そんな「興味のベクトルの違い」がもどかしいのです。

 

ハツは自分が今ここに存在しているのに、にな川はいつまでも触れることすらできないオリちゃんに取り憑かれている。そして、幼いフリが上手なオリチャンと泥臭くて幼いハツを比較してしまう。自分が不安定で、自分を認めてほしいのに、同族意識を持ったにな川でさえ見向きもしてくれない。「自分はここにいるんだ」という思いの発露が「蹴る」という行為だったのです。 

おわりに:『蹴りたい背中』は学生におすすめ!

ページ数は文庫本で172ページ。文字も大きく誰にでも読みやすいです。大人はあの頃を懐かしく思いながら、学生は共感しながら、ぜひ読んで見てください。

 

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文学部のジェイ

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